泥染め職人 金井志人|ピンクからグレー、黒へ。 土の成分で変化していく色

「土」をテーマにしたmammoth “Soil”特集の巻頭インタビュー。第5回は、泥染め職人の金井志人さんにお話を伺いました。
– 僕の工房がある集落は裏山が水源地ということもあって、「泥田」と呼ばれる水の溜まった沼地が点在しています。そこは1年をとおして、土がぬかるんだ泥状になっています。
奄美の泥は鉄分が強くて、粒子が細かいという特徴があり、触るとつるつるしていてとても気持ちがいいんです。カエルなどの生きものがたくさんいて、子どものころは格好の遊び場でしたね。そのような泥田で昔から続けられてきたのが、奄美の伝統的な染色技法である「泥染め」です。
伝統的な泥染めは、まず糸や布をテーチ木(車輪梅)の染料で染め、次に泥田で泥を揉むように染み込ませ、最後に川で洗うという作業を繰り返して黒く染め上げていきます。テーチ木のタンニンと泥の鉄分が化学反応して、テーチ木のピンクっぽい色から赤みがグレーになり、染め重ねることで、チャコールグレー、茶、最終的に黒へと変化するんです。
僕はいつも奄美の自然に「染めさせてもらっている」という感覚がしています。泥田の手入れは、鉄分を足すためにたまにソテツの葉を入れるぐらい。テーチ木も昔から垣根などに使われてきた身近な樹木です。泥染めの材料は、島にすべてそろっています。
また、”伝統”の枠を外せば、奄美の自然にはテーチ木のほかにすごく鮮やかな黄色が出る福木など、染料として使えるものがまだまだあります。僕は伝統的なことも続けながら、天然の色を使っていろいろな作品をつくり続けたいと思っています。
金井志人(かない・ゆきひと)
1979年、奄美大島生まれ。高校卒業後に上京し、音楽を学ぶ。25歳で帰郷。家業である「金井工芸」を手伝ううちに、自然から色が生まれる天然染色の魅力に目覚める。現在はアパレルブランドの染色なども手がけている。