土器作家 熊谷幸治|縄文の人々がつくった土器を現代に甦らせる

「土」をテーマにしたmammoth “Soil”特集の巻頭インタビュー。第3回は、土器作家の熊谷幸治さんにお話を伺いました。
– 美大に入り、初めて焼きものの土に触れたときに「これはいい」と直感しました。それからは焼きもの三昧。時間を見つけては産地をまわり、自分がやりたい焼きものを探しました。大学3年のとき、たまたま入った資料館で縄文土器を見て、ひっくり返った。形も装飾も土の質感も独創的。「これをやってみたい」と思ったんです。
土器は低温で焼くのが特徴です。陶器や磁器などが1,150〜1,350℃なのに対して、土器は900℃以下で焼きます。前者は土を高温で溶かし固めていて、いわば土を石に変えているようなもの。でも土器は、火が入るのは表面ぐらいで「生焼け」っぽい感じ。土っぽさが残っていて、質感がとても好きですね。
また、高温で焼くには耐火性の高い粘土が必要ですが、土器は成形できる程度の粘り気がある土ならほぼ使えます。僕の想像ですが、縄文の人々は誰でも、土を掘って、土器をつくることができたんじゃないでしょうか。火力もさほどいらないので、枝や枯れ草などを拾い集めて野焼きしていたようです。自然に優しく、平和な器なんです。
いま、日本で土器を仕事でつくっているのは僕くらい。土器は水分が染みるので食器にはならないと思うでしょうが、表面に水を弾くものを塗れば十分使えます。逆に器が呼吸しているので、梅干しなど発酵食品を仕込むのにぴったり。土器は使いこむほどにいろいろものが染みこみ、色などが変化して成長していくのも魅力です。心地よい土の質感を、生活に取り入れてほしいですね。
熊谷幸治(くまがい・ゆきはる)
1978年、神奈川県生まれ。2003年、武蔵野美術大学卒業。「ものづくりがしたい」と美大に進学し焼きものに出会う。縄文時代の土器づくりを独学で身につけ、現在は山梨に工房を構え、土器を中心に作品を発表。