あざやかな色と香り 花は憧れのもの|植物学者 大場秀章|マンモス花特集インタビュー

『mammoth』最新号の特集は「花」。本誌に掲載しているショートインタビューでは、植物学者の大場秀章さんにお話を伺いました。大場さんが植物を好きになるきっかけは何だったのでしょう?
– 遠足で訪れた、三浦半島にある神武寺で、初めて植物が野生状態で生えているのを見て感動しました。目にしたシダを牧野日本植物図鑑で調べてみると、この図鑑には100種くらいのシダが載っていました。日本に野生するすべてのシダが網羅されていたのではなかったのですが、図鑑にはすべてのシダが載っていると勘違いして、100種なら全部集められるのじゃないかと思い、いろいろな場所に採集に行くようになったんです。いまから振り返ると植物の研究にのめりこんでいったきっかけは勘違いから始まったシダの採集だった、と思いますね。
花は人類が誕生する前からあり、いろいろな場所で出会いがあった。私たちの祖先は亡くなった人を洞窟に安置し、花を手向けることをネアンデルタール人から学んだといわれています。人類が初めて出合った色の世界も、花と鉱物が演出するものでした。人が色を人工的につくりだせるようになったのはわずか200年くらい前からです。それまでは、花や鉱物を加工して色をつくり出していたのです。だから、色彩やかな花は人類の憧れの的であったわけです。おしゃれの原点も、花で装い、その色彩を取り入れることから始まったと考えられています。
また、植物は花粉を運んでもらうために、強い香りで昆虫を花に誘います。人もそのことに気づき、やがて香水をつくります。花のような彩やかな衣服に身をまとい、香水をつかい、花を模倣しているのですね。
 
大場秀章(おおば・ひであき)
1943年、東京都生まれ。東京大学名誉教授。1983年から東京大学ヒマラヤ植物調査を主宰し、5,000m級の植物にとっての極限環境下に生きる植物を研究してきた。『バラの誕生』(中央公論社)など著書多数。