雪国の知恵、こぎん刺し

菱形を組み合わせたシンメトリーの美しい刺繍が特徴の「こぎん刺し」。初めて見た人にもどこか懐かしく、親しみを覚えるのは、花やチョウチョ、豆、牛といった、生活から生まれた図案だからでしょう。こうした模様を生み出したのは、農村の女性たち。農作業のための仕事着を美しく彩るものでした。
こぎん刺しが生まれた江戸時代には、「農民は麻を着るべし」という制約が藩によって決められていました。しかし、麻は空気を通すので、冬の寒さをしのぐためには工夫が必要でした。布を補強しながら、温かさを保つような刺繍を刺すことは、雪国に暮らす人々が生み出した知恵だったのです。村や家ごとに独自の柄があり、別の村に嫁いだ人が図柄を伝えたりして、その模様はさまざまに発展していきました。農村の娘たちは、幼い頃から刺繍に親しみ、その美しさを競っていたそうです。
木綿の布が手に入るようになった明治から大正にかけて、こぎん刺しは一度はついえてしまいました。昭和に入って、民藝運動家の柳宗悦によって再び見直され、復興を遂げることになりました。限られた素材を活かす暮らしの知恵は、雪国の人々のたくましさを感じさせてくれます。

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