省エネで暮らす 海の生物|佐藤克文(海洋生物学者)

僕がおこなっているバイオロギングという研究方法は、ウミガメやペンギンにデータロガーという小型記録計をとりつけ、どのくらいの深さまで潜るか、どのくらいの速度で泳ぐかといったデータを収集するもの。この方法によって、人間には見えない海の生物の生態がわかるんです。
この研究を続けていて興味深いのは、野生の生物たちの意外な行動、生きかたです。たとえば、南極のエンペラーペンギンは560mの深さまで潜ったという記録がありますが、普段は100mや200mといった深度までしか潜らない。500mを超える深さに到達することはあまりありません。彼らは餌を採るという目的を達成しさえすれば、あえて深く潜ろうとはしない。ウミガメにしても、産卵期にはガツガツと餌を食べるだろうと思っていたら、そうではなかった。どうも、産卵期に入る前にたくさん餌を食べて脂肪としてエネルギーを蓄え、産卵期にはほとんど餌を食べる必要がないようなのです。つまり野生動物たちはできるだけ少ないエネルギーで目的を達成するといった、非常に理にかなったサステナブルともいうべき生活を送っている。必要以上に動かず、狩りもしない。でもそのように生きてきたからこそ、厳しい自然のなかで生き残ってこられたんだと思います。膨大なエネルギー消費をすることでしか満足できなくなっている人間は、果して正しい選択をしているのか。海の生物たちを観察していると、そんなことを日々考えるようになるんです。
 
佐藤克文 さとう・かつふみ
東京大学大気海洋研究所国 際沿岸海洋研究センターにて、世界中の海の生物たちを追い、観察を続ける。野外生物学、環境 生理学等を専門とし、自らも世界の海へ出かけ、 最新の機材によるデータ収集をおこなっている。
このインタビューは、『mammoth』24号「Our Ocean 命をつなぐ ひとつの海」に掲載されています。text: Hiroshi Utsunomiya artwork: Nobuko Yuki