子どもを成長させ輝かせる、海|内野加奈子(写真家・作家)

十年間を過ごしたハワイでは、ローカルキッズや日本から来た子どもたちに、海を舞台にしながら、自然のしくみや不思議さ、楽しさを伝えるプログラムを開催していました。最初は海のことを知らなかった子どもたちがすぐに夢中になって、次々と新しい発見をしていく。豊かな海の環境や生きものは、私にも予想できない子どもたちの反応を引きだし、自然が子どもたちを成長させていくのです。子どもたちが本来もっている輝きを取り戻す海の力に、あらためて心を動かされました。
そもそもハワイへと渡ったのは、太陽や風、星などの自然を手がかりに大海原を進む伝統航海術に興味をもったから。古代ポリネシアで用いられたカヌーを復元したホクレア号で、長い航海にも出かけました。見渡すかぎり水平線の大海原。陸上にいるときの何倍もの鋭敏な感覚で潮のにおいや風の音などを感じ、海の力によって五感が研ぎ澄まされていくのを体感したのです。
いまは日本の土佐山という場所を拠点に、自然と人が一体となった暮らしや社会のありかたを学ぶ、土佐山アカデミーという学びの場づくりに取り組んでいます。自然とのつながりを感じながら暮らすことは、心の深い部分から大きな喜びを呼び覚ましてくれます。ハワイでも土佐山でも、自然や人が本来もつ可能性を引きだしたい、という同じ思いで活動しています。
自然について、ひとつのことを知る と、十個の知らない事実に気づかされる。触れれば触れるほど、その豊かさと不思議さに魅了されています。
 
内野加奈子 うちの・かなこ
ハワイで伝統航海術師マウ・ ピアイルグ、ナイノア・トンプソンに師事。伝統航海カヌー「ホクレア」の日本人初クルーとなる。現在は高知・土佐山で100年先を見据えた学びの場、土佐山アカデミーに従事している。
このインタビューは、『mammoth』24号「Our Ocean 命をつなぐ ひとつの海」に掲載されています。text: Hiroshi Utsunomiya artwork: Nobuko Yuki