ART WORK: MEJUNJE

未来のために豊かな「心」を|長谷川眞理子(行動生態学者)

「未来は、動物も植物も、いまある種類の25%ぐらいが絶滅します」。
ちょっと厳しいかもしれませんが、これは国連で発表された生態系の未来像の一部です。人間がどんなに努力しても、50~100年ほどでこのような未来が実現してしまうでしょう。
過去にも生態系の大絶滅は何度もありました。しかし、それは100万、1000万年の単位で起こって、回復にも同じくらいかかっています。10〜50年というスピードで起こったことがないので、未来がどうなるかは誰も予測がつかないんです。気候や生態系がガラッと変わった状態、いまの地球とは全然違う姿で安定するんだと思います。
環境がいままでにないスピードで変化すると、適応できなくなった多くの動植物が絶滅し、変動幅が広くても平気な種、ネズミやカラスが大繁殖する。そうなった時でも、人間には生き残る力があります。頭を働かせて、論理的に物をつくり出すようなことは、人間が得意とすることなので、エネルギー開発や食料確保は多分大丈夫。
そこで一番問題となるのは「心」です。感情的な部分が、テクノロジーや環境の変化のスピードにうまく追いつけず、社会にひずみが生じるのです。
では、ストレスや変化に対して「心」を保ち続けるためには何が大切なのでしょう。私は、子ども時代にどれだけ感動できるかだと思います。自然の驚異や人の愛情にふれて、さまざまな感動体験をする。人にとって「本当に大切なこと」が受け継がれれば、明るい未来に出会えるはずです。
長谷川眞理子 はせがわまりこ 
1952年生まれ。総合研究大学院大学教授。専門は行動生態学、人間行動進化学、進化心理学。『クジャクの雄はなぜ美しい? 増補改訂版』、『動物の行動と生態』、『オスとメス=性の不思議』など著書多数。
マンモス 21号 「IMAGINE THE FUTURE どんな未来を想像する?」(2011年9月発行) インタビューより
Text: Keiko Kamijo