Photo: Sachie Abiko

子どもは未来そのもの|中島デコさんインタビュー

ブラウンズフィールドと呼ばれるその場所には、世界中からいろんな人が集まってきます。五人の子どもに恵まれ、マクロビオティックを実践しながら自給自足の生活をする中島デコさんが話してくれたのは、生きるということそのもののすばらしさでした。
 
一歩一歩の、すごくシンプルなこと
私のコンセプトは、子育て中の人を応援すること。子どもって未来そのものだと思うし、子どもを育てなくてどうするのって思う。自分の魂やエキスをすべて子どもに託して、その子がまた次に…っていう血のつながりはすごく大事だと思うから、みんな、子どもを生んで、いい子をどんどん育ててほしいな。いい子を育てるには、いい食事を選んでいくべきだと思う。食事をちゃんと選べば、ちゃんとした精子と卵子ができ、いい子どもが絶対生まれるし、いいおっぱいが絶対出るから。
私の血液型はRHマイナスで、血液型不適合が起こるから出産に向かない身体だって言われていたんです。でも私はたくさん生みたかった。そのとき、現代医療ではなく、目に見えない世界とかエネルギーとか、そういう力を信じたいという気持ちが感覚としてあって。それがマクロビオティックを始めるようになったきっかけなんです。実際マクロを取り入れてみると、出産も次々スムーズにいき、身体もどんどん元気になり、性格も前向きになり、子どももすごく健康だし、お友だちもたくさんできるし。しかも、食べものがおいしいの。舌先でおいしいとかじゃなくて、細胞レベルでおいしいと感じられるようになった。マクロビオティックの食事が、きっと自分にすごく合っていたんですね。
要するに、一歩一歩がすごくシンプル。いいエネルギーのものを食べれば、血がさらさらになる。血がきれいになれば、細胞ひとつひとつがよくなる。細胞がよくなれば、身体全体がよくなる。細胞は、九十日くらいであっという間に総とっかえみたいになるんだけど、それはつまり、どんどん新しい人に生まれ変わってるってことでしょ? 身体が元気になれば精神状態もよくなって、精神状態がよくなると、いい波動が出るようになる。すると、いい波動の人が寄ってくるんです。すべては食べもののチョイスから始まってるんだと思ったことで、すごくしっくりきたんです。
 
選択肢があることを知ろう
自然の摂理に合った地元のもの、季節のもの、身体を温めるもの、エネルギーのあるものを選んでいけば、かならず自然に赤ちゃんはできるだろうし、どんどん元気になれる。日本のちょっと昔の文化を取り戻すだけで、日本人は元気になれるんだよ。
そういうことを肌で感じて実践できるのは、私はお母さんたちだと思ってる。お母さんは子どもを守るために必死だから、やっぱりいちばん敏感だと思うのね。
だけど、お母さんっていうのはちょっと前までは娘さんだったわけで、ね。大切なことを知るのが、お母さんになってからでは間に合わない。知らされていないと、選択肢もないじゃない? ただコマーシャリズムに乗せられて、それを鵜呑みにしてるから、選びようがない。たとえば出産のときでも、ただ病院に行けば取り上げてもらえると思いこんでる。でも実際私が五回の出産で感じたのは、お医者さんやお産婆さんが子どもを取り上げるんじゃなくて、実が木で熟してやがて落ちるように、時間になれば自然に生まれてくるってこと。それを切ったり貼ったり、注射して早めたり遅らせたりする必要がどうしてあるのかな。生まれてきた赤ちゃんにピシャーンと照明を当て、砂糖水を飲ませ、なんて不自然なこともされてしまう。でもそれって知らないと、そういうものだと思っちゃうでしょ。
だから、選択肢があるっていうことを知るだけでも大切だと思うので、みんなもっと目を開いて、本当のことを見てみよう。食べものの大切さや、自分が使っている化粧品や洗剤や、環境のことまで見据えて、いったい自分がなにをできるかをちゃんと考えてみる。それでみんな、自分さえよければいいっていうような考えを早くなくせば、もっと加速をつけて環境がよくなるんだよ。
 
体質は食べものがあらわしている
今、加工品が多いでしょう? マクロビオティックの考えかたでは、パックもの、缶詰、レトルト…そういう閉じこもっているものを食べていると、人間も閉じる。ひきこもる子になってしまうの。豚肉ばかり食べてると豚のように、牛肉ばかり食べてると牛のようになる。日本人はお魚をたくさん食べていたから集団行動するようになった、とかね。そうやって考えていくと、たとえば、朝からコーヒーと(酵母でない)パンにバターだと、最近まで生きていた採れたてのもの、フレッシュなエネルギーがない。本当は、一日一回でもいいからエネルギーのあるものを食べたほうがいいんです。味噌汁にしたって、味噌は発酵食品で、まさに生きているけど、そういうものと、コーヒーだけにするのと、毎朝続けていればどんどん差が出てきちゃう。
いろんなものがいっぱい売られているなかで、よいものを選択していくのは本当に難しい。だけど、気がついた人から少しずつでも始めたら、変わっていくのかなあって。最近、マクロビオティックやデトックスということばが知られはじめてきたでしょう。せっかくだから流行だけに終わらせず、みんなで大きな流れをつくって、どんどんいい子どもを育てていきたいよね。
 
目的をどこに置くか、自分はどうなりたいのか
でも今は、絶対マクロビオティックでなくてはいけない、とは思っていないんです。私もそういう時期があったからわかるんだけど、玄米菜食をきちんと守り、それを食べること自体を目的としてしまっているとしたら、ちょっと違うんじゃないかな。自然の理にかなった食事をして身体と精神づくりをしたうえで、自分はなにをしたいのかということこそが大事。「いいかげん=良い加減」の柔軟なスタンスで、健康になった自分がどうしたいのかを見据えて生きていけるようになってほしい。健康でなければ、やりたいこともできないんだから。
子育てに追われて、自分のやりたいことなんてできないって悶々としているお母さんもいるかもしれないね。でも結婚してからだって遅くないし、やりたいことはいつからでも始められる。子どもと一緒にもできる。一緒に育ちあえば一緒におもしろいことができるじゃない? お母さんという仕事はいちばん大事な仕事なのだから、誇りをもって子育てをしてほしい。今は本当に余裕のあるぜいたくな世の中だと思うんですよ。それを我が子と一緒に楽しんで実践できるのをありがたく思いながら、質のいい子どもを育ててほしいな。
お母さんが一所懸命だと、子どもはかならずその背中を見ていて、自分もがんばるようになる。ひきこもりとかニートとか、ぜいたく病だと思うの。甘やかさないで、ひきこもる前に蹴っ飛ばして追いだせばいい(笑)。自分で苦労しないとありがたみはわからないから、飢えさせることも必要だと思います。我が家も、ぜいたくなものは買いあたえません。だけど、いろんな体験のためにはけちけちしない。だってそれが財産になるからね。
 
結果は何年後?
こういうことがはっきり言えるようになったのも、子どもを五人育てながら試行錯誤してきたから。だって上の子ふたりが小さい当時は、私も一所懸命マクロをやってたから、そこからはみだすのは絶対に許さないっていう感じですごく厳しくしちゃって。だからその反動で隠れて食べるようになるよね。だけどある日ね、電車のなかで落ちてた飴をパッと口に入れるのを見たときに、しまった、飢えさせるにも限度がある(笑)って。年頃になるとその子たちも必死にうちから逃げようとして(笑)東京の高校に行ったりして、その間うちとはノータッチで過ごしてたんです。外食したりケーキバイキングに行ったりなんかもしたみたいけど、結局はそれも飽きちゃうと、自然食って食べようと思うと意外に高いし大変なんだとか、お母さんのご飯はおいしかったんだということに気がついたようで、二十歳くらいになったら完全に気持ちはここに還ってきた。上のふたりは今結局、マクロ関係の仕事をしています。私のやりかたを押しつけすぎて悪かったかなあと思ったこともあるけれど、私がそのとき正しいと思ったことを一所懸命やって、結果的には報われたなって思う。
そういうわけで、上のふたりは価値観の似たすてきな女性に育ってくれたんですが、その下の子は知りませんよ(笑)、これからだから。今高校生の男の子なんだけど、肉が大好きだしね。俺は自分の好きなものを食べると言うから、私も彼のお弁当はつくらない。説得するのはもうあきらめた。手際よく自分の朝ご飯をつくって食べて、弁当をつくって出かけていくよ。妙にあちこちで買われるよりいいから、生協の冷凍ソーセージとかをストックしといて、そこから使わせるの。それに調味料だってうちのを使ってるわけだし、ご飯もうちの田んぼのもの。どうせ手のひらから出られないじゃん、ざんねーんってね(笑)。もうすぐ追いだすつもりだけど。それで身体が不調になれば考え直すでしょう。
そうやって自分で考える時期も必要だし、ずっと押しつけるわけにもいかない。だから最初にきっちり押さえておいて、あとはリリースって感じかな(笑)。子どもとのそういうさじ加減がだんだんわかってきましたね。だから子どもがひとりだけのお母さんは、逆に大変だろうな。自分が育つ間もなく子育てが終わってしまい、一回の試行錯誤で終わってしまうからね。ホントあっという間に育っていなくなっちゃうから。 私なんて、今考えると五人でも足りなかったと思うくらい。
 
幸せの発酵状態
私がしていきたいのは、自分の経験から学んだことをみんなに伝えていくこと。ブラウンズフィールドでは、マクロのおいしく楽しいお食事を提供したり、お料理教室をしたり、年間とおして田んぼに来てもらって、お米を植えて稲刈りして…と、つくっていく過程が見えるようなことを体験させてあげたい。喜んで来てくださる人たちにどんどん場を開放して、その収益でここを持続可能な場所にしていきたいんです。大豆から味噌やお醤油をつくり、お豆腐や納豆もつくる。そういういいサイクルを半年なり一年なり体験すれば、その人はきっと、すぐにはできなくても、いつか子どもを育てるときにこういう生活をしたいって思うかもしれない。だから、みんなの気持ちのなかに種をまくような、そういう仕事ができたらって。まあ、働いてもらえると私も助かるんですけど(笑)、それはお互いさまでみんながハッピーになれば、いいエネルギーの循環になると思って。そんな場所づくりをどんどん充実させていきたい。
ありがたいことに、まわりに芸術家や鍼灸師や、ユニークな人がいっぱい住んでいるんですよ。みんなと協力しあって、地域を活性化していく核になっていけたらいいな。こういうことが理想だったので、今とってもおもしろい。
がむしゃらにこの場所をつくってみて、やっているうちに、ここをどうしたいのか、人にどうしてあげたいのかっていうのが見えてきて。それで最近、人の喜びが自分の喜びっていうのをすごく実感したの。ことばで言うとすごくありきたりなんですけど、ストンと腑に落ちちゃったというか。みんながここで成長してくれて喜んでくれて。一緒にご飯食べながらおいしいねと言っているそういう瞬間がいちいち、プチプチプチプチって、幸せの発酵状態。どんどん発酵して、いきいきした時間が、いきいきした人が増えていく。
それもこれも、食べものを大事にしてきたおかげだなって私は思う。すごく今楽しいしおもしろいから、これをみんなにどんどん分けてあげたい気持ちでいっぱいです。
 
中島デコ(なかじま でこ)
1958年、東京生まれ。料理教室主催などを経、都内から千葉県の田畑つき古民家に移住。フォトジャーナリストである現在の夫、エバレット・ブラウンとブラウンズ・フィールドを立ち上げ、世界中から集まってくる研修生らとともに生活している。デトックスのプログラムや料理教室など、マクロビオティックに根ざしたさまざまな活動をしている。2006年、自宅に「ライステラスカフ
ェ」をオープン。www.brownsfield-jp.com
 
このインタビューは、『mammoth』 No.14(2007年)に収録されています。 取材・文:野村美丘 写真:安彦幸枝