Photo: Kazuhiko Washio

子どもたちに伝えておきたい大切なこと|ジャック・ジョンソンさんインタビュー

「ハワイのすばらしい自然を、次の世代に受け継いでいきたい」 ミュージシャンであり、地元ハワイでは子どもたちのための環境教育活動に取り組む、ジャック・ジョンソン。年に一度のチャリティイベントをオーガナイズし、子どもたちのいる学校にも自らで出向く彼は、世界的なミュージシャンである前に、ハワイのローカルヒーロー。今年で三度目となるコクア・フェスティバルの会場で、子どもたちへの思いや環境教育プログラムのこと、そして自身の子育てについて語ってもらいました。
 
——あなたが主催するコクア・フェスティバルでは、赤ちゃんから老人まで、幅広い年層の観客が会場をにぎわせているのが印象的でした。地元では、環境教育活動の一環として、あなたが学校に出向いて子どもたちに歌を聞かせる活動をしているそうですね。
「“3R’s school recycling program”というコクア・ファウンデーションの活動のひとつで、Reducing(無駄を減らす)、Reusing(再使用)、Recycling(再利用)という3つのRを奨励する運動なんだ。この3Rをがんばってくれた子どもたちの学校に出かけていって、ごほうびに教室で歌ってあげるんだよ。僕が子どものころ、ハワイで有名なコメディアンのフランク・デ・リマが学校に来てくれたことがあってね。スーパースターとしてではなく、ひとりの人間として、目の前に彼がいる。僕はそのとき本当に感動してしまって、いまでもそのことが忘れられないんだ。だから僕も、フランク・デ・リマのようでありたい。子どもたちの前で見本を示すことのできる人間でありたいと思っている。自分自身の眼で見るということ、彼らがエキサイトしてくれるということ。それが真実なんだ。そうしたリアルな体験が、一生を通じて子どもたちの人生に影響するんだと思う」
 
——もうすぐふたりめのお子さんが生まれるそうですが、あなたは子育てについて、どんな哲学をもっているんでしょう?
「僕自身が大切に思っているのは、親は、子どもたちが自分自身で学び、判断するチャンスを提供してあげるだけでいいんだってこと。僕はなるべく、息子には細かく干渉したりしないようにしている。ただそっと彼のそばにいて、彼が自分自身で学んでいるところを見ているだけでありたい。でも、どうやって学べばいいのか、その方法論だけは与えてあげたいと思っているんだ。たとえば息子が裏庭で、棒きれかなにかを拾って地面を突っついてみたりして、ひとり遊びをしているとする。僕はちょっと離れたところにいて、ただ彼の姿を見ているだけなんだ。ときどきあわてて走っていって『虫さんを潰したら駄目だよ。もっと優しくしなくちゃ』と言わなくちゃいけないときもあるけどね。こうしたコミュニケーションのなかから、子どもたちが、自分も父親と同じひとりの人間なんだ、自分なりの考えをもって生きているんだ、ということに気がついていく…。僕はそれが大切だと思っている。子どもでいるということがどういうことなのかってことはよくわかってはいるんだけど、それでも彼らは、僕たち大人と同じようにひとりの人間として、自分自身の考えでいろんなものを体験したりしているんだから。
そしてさまざまなことを体験するためには、家のなかで一日中テレビを見ているんじゃなくて、家の外ではいろいろなおもしろいことが起きているということを教えてあげたい。一緒に旅をして、たくさんの見知らぬ場所に連れていってあげたい。世界中でいろんなことが起きているからね。僕自身も旅することでいろんな体験をすることが好きだから」
 
——そういった子育て観は、あなたの父親からの影響もあるのでしょうか?
「そうだね。僕の父は本当にすごい人なんだ。ほら、ときどき子どもに『ピアノのレッスンに行きなさい。ゴルフのレッスンに行きなさい』って言う親っているでしょ? そう言われてレッスンを受けたら、子どもたちはきっと上達するとは思うんだ。でもティーンエイジャーになったとき、ふと、両親は自分が本当はやりたくないことを強制してたんだ、なんて思うようになって、親に反抗してしまったりする。ピアノを弾くことはできるかもしれないけど、それを楽しんでいるかというと、そうともかぎらない。僕の父は、子どもたちにサーフィンを強制したりはしなかった。僕たち兄弟はいつも、父がサーフィンに行く姿をただ見ていただけだった。なのに僕たちは、そんな父親の姿を見てサーファーになりたいって思ったんだ。父の姿を見ることこそが、とてもすばらしいレッスンになったんだよ。父はいつでも放任主義だった。そして僕たちが自分自身でなにか体験するべきだということを教えてくれたんだ」
 
——日本ではいま、出生率が低下しています。少子化についてはどう思いますか?
「良いことと悪いことの両面があると思う。地球的な視点で見ると、人間の数はたしかに増えすぎてしまっているといえる。そのために、環境汚染や温暖化の問題などとても深刻な事態が起きてしまっている。見かたによっては、人口が減ることは地球にとって良いことといえるかもしれない。もちろん少子化に関してネガティヴなことはたくさんある。子どもをもたないことで、大人たちがコミュニティに対してなにか貢献しようという気持ちがもてなくなる。これがとても大きな問題だと僕は思う。つまり、まわりの人たちに対しても、あるいは自分自身についても、そして次の世代に対しても、なにかしようって気持ちがもてなくなってしまうってことなんだ。こうした生きかたは、長い目で見ていけば、社会をネガティヴな方向へ動かしていってしまう気がする。少子化はたしかにとても難しい問題だと思う。でもそのことをきちんと受けとめて考えていく責任が、僕たちにはあると思うよ」
 
——新しいアルバム『Sing-A-Longs and Lullabies for the film Curious George』はビートが効いていてダンサンブルだけど、それは息子さんの影響でしょうか? 
「たしかに子どもの影響は大きいかもしれない。息子がスタジオに入ってくると、僕は彼に歌ってみせるんだ。すると彼は踊りだす。でもときどきスタジオを出ていってしまうこともあって、そんなときは、もっとアップビートな曲にしなくちゃって思ったんだ。子どもの注意を引きつづけるには、身体をゆすったり、歌ったり、手を叩いてみたり、そんな曲がやっぱりいいよね。たぶん僕は、子どもに対してはファンキーになっちゃうんだよ」
 
——コクア・ファウンデーションの活動は、基本的に地元ハワイのローカルコミュニティのための活動ですが、あなたにとってハワイとはどんなところ?
「ハワイは米国のひとつの州なんだって思うと同時に、まるで独立したひとつの国のようにも思えるんだ。とてもユニークな場所だと思う。日本やオーストラリア、タヒチなどからもとても影響を受けているしね。ハワイでも、ここは俺の土地だ! ということを強く主張する人たちもたしかにいる。でも誰もが利用できるようなパブリックスペースや国立公園もとても多いんだよね。ハワイの良いところって、そんなふうに多様な文化やライフスタイルがブレンドしているところだと思うんだ。ほかの文化からいろんなことを学ぶ機会がとても多い。おたがいに学びあうってことがないとね」
 
——最後に、これからのプランについて教えてください。
「まず僕自身の音楽活動についてだけど、しばらくツアーに出るのを休もうと思ってるんだ。もっとサーフィンを楽しむ時間ももちたいし。ここのところずっと忙しくて、すっかりサーフィンから遠ざかってしまっていたからね。
コクア・ファウンデーションの活動については、ちょうど来年の計画を話しはじめたところなんだ。僕はもっと学校を訪問する機会を増やしたいと思っている。学校に行って子どもたちの前で演奏したり、それに“farm-to-school”のような活動をもっとさかんにしていきたい。これは子どもたちと地元のコミュニティとが協力して有機栽培の野菜を育てて、給食にして食べようというプログラムなんだけど、来年は5つの学校が参加してくれることになっている。これはもっともっと広げていきたいよね」
 
ジャック・ジョンソン(Jack Johnson)
1975年5月18日、ハワイ・オアフ島生まれ。“パイプライン”の名で知られる世界的なサーフスポットの目の前で生まれ育った彼は、高校生でプロサーファーとしてのデビューを果すが、17歳のときに大けがを負いプロを断念。それがきっかけで映像制作と音楽活動の道へと進んでいく。サーフィン仲間と自主制作した映像とそのBGMとして使われていた楽曲が注目され、2001年にミュージシャンとしてデビュー。2002年に発売した『Brushfire Fairytales』でアーティストとして注目され、その後、『On & On』(2003年)、『In Between Dreams』(2005年)がたてつづけに全世界でヒット。一躍、サーフミュージック・シーンの寵児になっていく。日本では2003年の朝霧ジャムへの出演以来、すでに4度の来日をはたしている。2006年4月には幕張メッセで15,000人の観客を動員した。http://jackjohnsonmusic.com/
 
このインタビューは、『mammoth』 No.13(2006年)に収録されています。 写真・文:鷲尾和彦