安彦幸枝

地球を想い、地球と生きる|カナダの環境活動家、セヴァン・カリス=スズキさんインタビュー

子どもたちは無邪気さゆえに、すべてのことが可能だと考えます。そしてカナダのある十二歳の少女は、世界中のリーダーが地球を救う活動に参加すると強く信じていました。
あたりまえな訴え
1992年、セヴァン・カリス=スズキとその友人グループは“ECO”(子ども環境NGO)を設立、自分たちで旅費を貯め、リオ・デ・ジャネイロで開催された「地球サミット」に参加しました。このサミットでセヴァンは、各国の代表や大使、銀行家などの前で演説をおこなったのです。「世代間をつなぐ愛の瞬間」と後の彼女が名づけるそのスピーチは世界中の脚光を浴び、多くの聴衆が感動の涙を流しました。
でも彼女がしたのは「人に親切にしなさい」「けんかをしてはいけない」「お互いを尊重しなさい」「分かちあいなさい」といった、学校で子どもが教えられることを大人たちに伝えたという、ただそれだけのこと。もしあのとき、彼女の訴えに大人たちがもう少し注意深く耳を傾けていれば、きっと地球はこれほどまでに荒廃することはなかったかもしれません。
「世界的に見て、1990年代は環境にとって最悪ともいえる十年間でした」とセヴァンは言います。「リオでこの地球サミットが開かれた後、皆が環境問題のことを忘れてしまった。こんなに大きな会議を開催したのだから、すべてはよい方向に進展するだろうと誰もが安心してしまったからでしょう」。
 
自分で見極め、習慣に変える
とはいえ、悲観的なわけではありません。環境変化は、結局は人々がどのように日常生活を送るかということから起こると彼女は言います。「とても些細なことだけれど、実際、それ以外にはないんです」。でも、ゴミをきちんと分別したり、歯磨きの間は水を出しっぱなしにしないといった毎日のちょっとした習慣で、違いを生み出すことなど本当にできるのでしょうか? 夕食をつくっていたり、宿題を片づけているときに、ペットボトルをわざわざコンビニまで持っていくのは、面倒なことのようにも思えます。
「それは訓練されていない習慣のせいなんです」とセヴァンは言います。「今、私たちが身を置いているのは、浪費しなさいと教育をしてきた社会。私たちに必要なのは、自身を管理し、正しいことをするのにそれほど努力がいらないような、よりよいシステムを見極めること。おかしなことだけれど、今の時代、正しいことをおこなうことですら難しくなっているのですから」。
 
目に見えることから
セヴァンにとって、地球について考えることはいつでも彼女の人生の一部でした。父親のデヴィッド・スズキは、カナダで最も影響力のある科学者。セヴァンはそれでも、活動家であり教育者である母親のタラ・カリスを、日常的なレベルでの環境とのつながりを教えてくれた存在だと確信しています。
「父は活動家として忙しかったので、環境を考えながら生活するという理想を私に教えこんだのは母でした。私たちは実際にゴミをすべて分別したし、些細なことまですべてに注意を払いました。これこそが、親のできることのひとつ、なにを規準にするかを定める、ということなんです。ゴミから堆肥をつくったり、リサイクルしたり、食料品に過剰包装しないようにしたり、買い物にはエコバッグを持参したりといったことが“規準”とされれば、それらがいつしか習慣になります」。
地球への配慮を教えこむのには、かならずしも環境活動家である必要はありません。「大人はとても単純な方法で、環境問題を意識させながら子どもを育てられる」とセヴァンは言います。「子どもは種をまいて、自分たちが食べるものを育てることができます。一粒の種が将来、自分を支える一本の木に成長するという事実が、私にとってどれほど重要だったか。私が出発点としたいのはそのこと、つまり、庭や窓枠に置いた小さな鉢植えなんです」。
彼女はさらに、フィールドトリップ(現地調査)を提唱します。「とても効果的なのが、ゴミ処理場へ実際に足を運ぶこと。大人のほとんどが、ましてや子どもならなおさら、自分たちの出したゴミが最終的にどこへたどり着くのか知りません。一度ゴミ処理場へ行けば、環境ということがなぜそれほど重要な問題をはらんでいるか、子どもたちは即座に理解するものです」。
環境をポジティヴに楽しむ
とはいえ、氷河が溶けて北極熊が死滅しようとしているとか、カリフォルニアで手に負えない山火事が発生したとか、オーストラリアで珊瑚の白化現象が見られたなどというニュースを聞くと、私たちは現状に対して悲観的にならざるを得ません。
「世界をもっとよい場所にしたいと望むなら、私たちはネガティヴなものと闘わないといけない」とセヴァンは言います。「腹立たしいことはたくさんある。でも重要なのは、“もうひとつの選択肢”を実際に生きるということ。つまり、“ポジティヴ”という選択肢です。私はいつも人々に『あなたにとって人生でいちばん大切なものはなんですか?』と尋ねます。すると家族、友人、音楽、おいしい食べ物、健康などと答えが返ってくる。それこそまさに今、私たちが真に愛する必要があるものなんです」。
「できるかぎり多くの時間を屋外で過ごす」というセヴァンは、現在、ブリティッシュ・コロンビア州の小さな離島で暮らしています。「仕事が終わると、私はパートナーと一緒に釣りに行きます。釣りを口実に外へ出て、海や川で時を過ごすんです。それは最高に楽しく、おもしろく、陽気なひとときであるばかりか、エネルギーの源にもなっているんです」。セヴァンにとって、環境のために闘うことは同時に、その環境を楽しむということでもあるのです。
※映画『セヴァンの地球のなおしかた』
「どうやってなおすかわからないものを壊し続けるのはもうやめてください」これは、12歳のセヴァンが地球サミットで大人たちに放ったメッセージです。そして29歳になったセヴァンは、お腹に生命を宿し、母として私たちに新たな言葉を送ります。6月25日から公開されている映画『セヴァンの地球のなおしかた』は、『未来の食卓』のジャン=ポール・ジョー監督が、もうすぐ母親となるセヴァンの姿を中心に、日本とフランスで傷ついた地球と向き合う人々を追ったドキュメンタリー作品です。
「大切なのは生活の質と健康、そして子供。だから私は自己中心的に、自分たちをどう救うかを考えていきたい。」子どもたちの未来を守るために、私たちが行動する時は今。セヴァンの声に耳を傾けてみませんか。
映画『セヴァンの地球のなおしかた』詳細はこちら。http://www.uplink.co.jp/severn/
 
セヴァン・カリス=スズキ
Severn Cullis-Suzuki 環境活動家。1979年生まれ。カナダ在住、日系4世。幼いときに両親と訪れたアマゾンへの旅がきっかけで、9歳のとき、環境学習グループECO(Environmental Children Organization)を立ち上げる。12歳のとき、リオ・デ・ジャネイロで開催された国連「地球サミット」で大勢の人たちに感銘を与えた伝説のスピーチをおこなう。2002年、イエール大学卒業。現在はハイダ民族の暮らすクイーンシャーロット諸島を拠点に活動している。2006年、ナマケモノ倶楽部の招きで来日、2週間のツアーを敢行した。環境活動におけるリーダーとして、世界中から活躍が期待されている。
このインタビューは、マンモス16号(2008年5月発行)に掲載されています。文:スザンナ・タータン 写真:安彦幸枝(ポートレイト)、ナマケモノ倶楽部 翻訳:飯島貴子 協力:ナマケモノ倶楽部