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星物語で地球観光ー中国編

北斗七星をキーワードにした星の物語。今回は中国に伝わるお話です。
中国では、北極星は天の帝、北斗七星は帝の車だといわれています。天の車をあずかる神さま北斗星君は、実はたいへんなものもあずかっていたのです。
ある日のこと、男が子どもと畑仕事をしていると、馬に乗った人がやってきて、子どもの顔をじっと見つめ、
「かわいそうだが、この子の顔には死相がでている。二十までは、とうてい生きられまい。」といいました。
そしてその人は、お酒一樽と干肉一斤を用意して、夜になったら畑の南へ行けといいました。
「桑の木の下で碁を打っている老人がいる。その二人に酒をつぎ、肉を差しだしなさい。何をいわれても絶対に口をきいてはいけない。約束できるなら、きっと助けてもらえるだろう」
男が桑の木の下に行ってみると、老人が二人、北と南に碁盤をはさんで碁を打っているではありませんか。二人は夢中で、男に気づきません。男がだまって盃に酒を満たすと、老人たちは、振り向きもせずにぐいと飲み干し、干肉をわたすと、これもまた見ずに噛んでいます。そのうちふと北の老人が気づいて、こわい声でいいました。
「なんだ、おまえ。なぜここにいる」
男は答えるのをぐっとこらえていると、南の老人がいいました。
「まあまあ、わたしたちはこの男の酒を飲み、肉も食らってしまった。なんとかしてやろう」
南の老人はそういうと帳面を開きました。子どもの名前の下には「十九」と書いてあります。老人は、ひょいっと印を書きこんで十と九をひっくり返してしまいました。
「安心なさい。息子さんは長生きします」
老人のいったとおり、子どもは九十まで生きました。碁を打っていた北の老人は北斗星君、人間の死をあずかり、南の老人は南斗星君、人間の生をあずかる神さまだったのです。
マンモス11号掲載「北斗七星伝説」文:寮美千子 画:小林敏也(p.52-63)より抜粋