土がもつ力と、土のなかに住む 小さな生きものの役割を考えてみよう|mammoth Interview|中村好男さん

ミミズ一筋、50年以上。中村好男さんは日本におけるミミズ研究の先駆者のひとりです。「ミミズがいるのは、いい土の証拠」という話は、きっと誰でも一度は耳にしたことがあるはず。では、どうしてミミズがいると土はよくなるのでしょう。土とミミズの関係について、中村さんに教えてもらいました。ちょっと笑えるミミズ博士になるまでの道のりも、一緒にどうぞ。

ミミズにも土にも興味はなかった

下町のあまり土のないところで生まれ育ったもんだから、小さいころ土に触れたことはほとんどありませんでした。毎日食べている芋やら大根やらが土からできているなんて、まったく理解していなかったんじゃないかなと思うんですよ。ただ、農家をしていた親戚のおじさんが牛車に肥桶を積んで遠くからやってきて、うちから糞尿を集めていって、その代わりに野菜を置いていくんです。私のうんちが野菜に変わるんだなと思ったのが、土につながる記憶です。

ミミズでいうと、よく魚釣りをしていたので、そのエサに使うという程度。ミミズがたくさんいるところを知っていたので、そこで獲って魚釣りに行ってました。実家は商店を営んでいたので、商業高校に進学しました。私はよく配達の手伝いをしていたこともあって、どうも金儲けのことしか考えていないような生活を送っていましたね(笑)。ミミズにも土にも興味はありませんでした。

ではどうしてミミズの研究者になったのかというと、まるで笑い話です。きっかけは、静岡から北海道の帯広畜産大学に進学したこと。畜産を勉強したかったのではなく、とにかく遠くに行けば親元から離れられるだろうという魂胆でした。

畜産の大学でしたらから、夏になると同じ学科のみんなで十勝地方の開拓地で実習をしました。あるとき、実習先の農家で「畑の土に肥料をなんぼ入れても、土がよくならなくて野菜が穫れなくなってきた」「豆や根菜類の根が線虫にやられてしまう」と相談されました。大学生なんだからなんでも知っていて当然だとばかりに、「どうして防げないんだ」と問い詰められて。でも、私は線虫の勉強なんてしてないから答えられませんでした。そうしたら「大学生なのに何も知らないな」なんてけなされて、ちょっとムカッときたんですね。「この次来るときに答えます」と、約束して帰ってきました。

ちょうど卒業論文のテーマを考える時期で、線虫をやってみようと決めました。勉強を始めると非常におもしろくなり、指導教官から大学院でさらに線虫の研究を続けることを勧められたんです。けれども、ここでちょっとおかしなことになって、指導教官の紹介で北海道大学に行くと、入る予定の研究室の先生からはミミズの研究をやってほしいと言われました。「ミミズをやらないと、入学を考え直さないといけない」とまで言われて(笑)。

当時、北海道はニュージーランドを手本に、酪農に力を入れようとしていました。するとニュージーランド側から、酪農をやるのならミミズの研究が必要だと指摘されたそうです。そこで、北大ではミミズの研究者を育てようということになり、運よく私が選ばれたというわけです。

そのときの先生の誘い文句が振るっていて、「ミミズの研究をやるとね、君が第一人者になる」と言われました。ただし、当時誰もやっていなかったので、これは二番目がいない一番でした。勉強しているうちに、それがだんだんわかってきたんですけどね。 

それまでミミズなんて魚釣りのエサでしか見たことがなかったので、まず「どんな種類がいるのかな」というところから調べ始めました。スコップを持ってキャンパスを歩きまわり、土を掘ってはミミズを獲って、古い文献を頼りに名前を確かめ、分類しました。そのうち北海道のあちこちに行って、牧草地や林などいろいろな場所でミミズを集めて調べました。

私がラッキーだったのは、北海道で研究を始めたという点です。北海道はヨーロッパやニュージーランドと気候が似ていたので、共通するミミズが多かった。日本に研究している人はいませんでしたが、ヨーロッパなどの先行研究を参考にすることはできたんです。

本物の土は3つの大切な力をもつ

ところで、ミミズを虫だと思っている人はいませんか。答えは「NO」です。ミミズは、環形動物という昆虫とは異なるカテゴリーに入っている生きものです。体の構造はとても単純で、ちくわやマカロニのような感じ。目も耳も鼻もないし、手足もほぼありません。口はあるけど、そこからすーっと穴があいていて、胃があって、腸があって、肛門があって、それで終わり。簡単でしょう。

ミミズは地球上に生命が誕生したばかりの、かなり早い段階からいただろうとされています。今のような地球ができていく過程において、ミミズが登場し、彼らが活動することで、生命を育む土がつくられていきました。土にとって、なくてはならない生きものとしてミミズはいるのです。

では、土とはなんでしょうか。最近、植物が育つ場所としてあればいいぐらいに考えられているようですが、土はそんなに単純なものではありません。私は土を「分解」「生産」「調節」の3つの力(役割)をもつものと定義しています。土の上に葉や生きものの糞が落ちると、吸収されていきますね。それが分解の力です。また、土から植物が芽を出し、根を張り、成長していくことを生産、水や空気が土のなかに流れたり、降り注いだ太陽熱が土中に保存されたりなど環境を整える力を調整と呼んでいます。

このすべてにミミズは絡んでいます。ミミズは枯葉や微生物などを食べて、土の栄養になる糞を出します。これは分解を助けることになります。彼らは土のなかでくるくると動きますから、縦横無尽に穴があいていきます。その穴が空気や水の流れをよくしてくれるんです。また、ミミズの体はヌルヌルしているのですが、このヌルヌルは彼らの尿。この尿は抗菌作用が強く、植物の病気につながるような微生物を絶やすほど。ミミズが動いて土のなかに尿を撒き散らすると、土の殺菌になりますし、植物が病気になったときに吸い上げると自浄作用の助けにもなります。さらに、ミミズは死んだ後も土に貢献します。彼らの死骸はあっという間に溶けていき、それが窒素肥料となり、土の大切な養分になってくれます。つまり、ミミズは土が力を発揮するために必要な存在なのです。

でも、最近は土がもっている本来の力を見ることなく、作物が病気になったら農薬を撒けばいいなど、短絡的な考えかたをしがちです。除草剤などを撒いてしまうと、ミミズの餌がいなくなってしまいます。トラクターで土を耕すと、ミミズの穴が壊されます。穴は彼らの住処でもありますから、餌も家もなくなってしまい生きてはいけません。そうして土からミミズがいなくなると、その土は硬くなっていって、やがて力を失い死んでしまいます。 今にして思えば、学生時代に出会った十勝の農家の方は、土をよくしたいと考えてやっていたことで、逆に土を死なせてしまっていたんです。一度、壊れてしまった土を甦らせるには、10年、20年の月日が必要です。とても大変なことですから、私たちはもっとよく考えなくてはなりません。

土のなかに広がる小さな生きものたちの世界

学校では花を植えたり、芋を掘ったり、土に触れる機会があると思いますが、そういうときは花や芋が育っている土のなかも見てほしい。ミミズが見つかるかもしれませんし、よく見ればミミズの掘った小さな穴がいっぱいあいていることを発見できるかもしれません。さらに土を顕微鏡で観察すれば、体長数ミリの生きものがいろいろと見つかるでしょう。今の時代、写真や映像で簡単に見ることができるかもしれませんが、やはり“本物”を体験することが大切です。本物の土であれば、ぎゅっと握ってふかふかの触感を確かめることもできますしね。そして土の力と、ミミズをはじめとする土のなかの生きものの役割を知って、なぜ芋ができるのかなっていうことを考えてみてください。

最後にもうひとつ、お願いがあります。ミミズの研究をしてくれる後輩を募集しています。ミミズはよくわかっていないことが多い。逆に言うと研究テーマはたくさんあります。たとえば、雨上がりの日にミミズが道にたくさん出てきますよね。こんな身近な現象も、なぜなのかわかっていません。だから私もここで言いたいわけです、今なら「第一人者になれますよ」と。

中村好男
ミミズ博士。農学博士。1942年、静岡県生まれ。帯広畜産大学卒、北海道大学大学院農学研究科農業生物学専攻修士・博士課程修了。専門はミミズのなかでも特に体長5~10ミリの小型のミミズ「ヒメミミズ」。2007年、愛媛大学教授を退官(名誉教授)、現在は熊本県の自宅にて、”生きた土”で野菜づくりをしている。

mammoth No.34 SOIL Issue(2017.3)収録

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