STORYTIME|ストーリータイム 対談 たかぎみかを × 高木正勝

音楽家がことばを紡ぎ、そのことばの世界を画家が絵で表現する「STORYTIME」。今回の作品は、丹波地方の里山で四季折々の変化に寄り添って暮らす、音楽家の高木正勝さんと絵描きのたかぎみかをさんによる、その名も『えほん』。大地とつながり、地球とつながり、果てしない宇宙へとつながっていく、おふたりの世界観をたっぷり感じる物語の制作裏話をうかがいました。

ーーー まずは『えほん』のストーリーがどのようにして生まれたのか、聞かせてください。
みかを:企画のお話をいただいたときに、ふたりとも「あれがあった!」と、このお話のことを思い出したんです。

正勝:6~7年くらい前でしょうか。ある夜、僕が急に思い立って、コピー用紙にこのお話とラフ画をバーッと描き留めました。ページ数も同じで、表紙に「マル秘、タイトル『絵本』と書いて、いつかみかをちゃんが描き直して絵本にしたらいいなと思って渡していました。

みかを:それからずっと眠らせていたのですが、マル秘絵本のことはたびたびふっと思い出すことがあって。そのたびにまだ描いてなかったなって思うのに、時間が経つとまた忘れてしまって。でも今回、お話をいただいたときに思い出して、内容もこの企画にぴったりかも!と思いました。

正勝:そもそもこのお話を思いついたころは、みかをちゃんが本格的に絵本を描こうとしていた時期で、いろんなアイデアを考えていたんですよ。ページをめくるたびに、わっ!って驚くような展開ってなんやろうとか。話の内容というより、絵本ならではの表現についてたくさん探っていた気がします。音とか、色とか、においとか、子どもでも大人でも楽しめるような、それで、ちょっと笑えるような、そういう絵本をつくりたいなあって毎日のように話していました。だから、日々の会話のなかから自然に生まれてきたお話です。

ーーー 絵のイメージは最初からあったようですが、制作過程で苦労したことはありましたか?

正勝:ふつうなら文章だけを渡して、絵描きがどういう絵にするか考えるのだろうけど、最初に僕がラフ画まで描いてしまったから、彼女がそれに引っぱられてしまい、いざとりかかるとなると難しかったようです。ただ、このまま仕上がってもおもしろくないから、ラフ画から離れられないなら文章を書き直そうかって提案しました。たとえば、インド人じゃなくて、アフリカ人にしようかって。

みかを:1ページ目でいきなりつまずきました。お話もラフ画もすでにありましたし、今回は正勝くんのお話を描くんだ!という気分で取り組んでいたのですが、描き進めていると正勝くんから「みかをちゃん自身の絵じゃないとおもしろくない」と言われ、一時は脳みそがフリーズ状態に。それで1ページ目を何回も何回も描いたのですが、なかなか納得いくものができない。30枚くらい描いたかな。構図とか、みつるくんの感じとか、いろんな描きかたを試して何日か経ったころに、最初のラフ画にあった、球場にみつるくんがポツンと座っているような絵は、私だったらまず描かないなってことに気がついたんです。それで、自分が家に飾りたくなるような1枚絵を描こうと決めて、男の子が気持ちよく絵本を読んでいる絵にしようと思って描き始めたら、だんだんおもしろくなってきて。それと、風が吹いたり光が射したり、その場で起こっている現象が伝わることを大切にしようと思いました。草が揺れていることで風を感じたり、カーテンがあるから光を感じられたり。でもまた中盤になって、正勝くんが「音が、音が…」って言い出して…。

正勝:ページごとに時空が変わるのがこの絵本のおもしろいところで、めくるたびに空間の音が変わるから。タコの親子のページなら、水中の音みたいなのが聞こえてくる感じがして。

みかを:それで音も意識して描き進めていたんですが、「わたしがよんでいる」のページにきて、また止まってしまって。そうしたら正勝くんが「この前のページには鳥とかいろんな生き物の音がするから、ここは、部屋のような閉じた空間を描いたらおもしろいんじゃない?」と意見をくれたんです。

正勝:みかをちゃんが最初に描いたのは家の外で、雪景色のなかで読んでいる設定やったんよね。

みかを:そう。言葉とかキャラクターは結局、ひと文字も変えてないけど、ここを部屋のなかに変えてみたらとてもしっくりときた。

正勝:キャラクターについては元になるものがあって、最初のみつるくんやりこちゃんのいる世界は、当時、僕たちが近所の“森のようちえん”に通っていたこともあって、そこで出会った子どもたちと近い世界。一方、インド人とかタコは、みかをちゃんが当時、制作していた絵本に出てきそうなキャラクター。急に時空が飛ぶような、宇宙人なんかも出てくる話を書こうとしてたからね。『えほん』は、あくまでみかをちゃんのための設計図だったから、彼女が考えるなら、こういうストーリーを考えるだろうなって思って書きました。後半の読み手が私になったり宇宙になったりするのも、自分だけやったら書いてないなと思います。

みかを:それと2年くらい前から、正勝くんは音、私は絵で、そのときのことを記録に残すという音日記というか絵日記のような「マージナリア」というシリーズをやっているのですが、そういう感じも取り入れて描きました。

正勝:たとえば「田植えしました」というのが、文字やったら「田植えしました」ってそのまま書く。絵なら田んぼの絵を描くと思う。だけどそこをぐっとこらえて、受けた印象だけを色と線くらいでシンプルに描いて残すっていう。僕も音で、情景を描くっていうより、受けた印象だけ。田植えなら、泥を踏み込んだときにじわあっと水が濁っていく感じだけを、帰ってからピアノで弾いて、現象を記録していく。「マージナリア」は、そういう遊びのようなことから生まれたシリーズなんですよ。

ーーー 表紙は抽象的な作品ですよね。どんなイメージで描かれたのですか?
みかを:じつは、表紙と裏表紙を合わせてみると、「えほん」の文字になっています。このお話は、ページをめくるごとにいろんな時間や場所に移動するけれど、みつるくんが本を読んでいる草原に吹いている風が、りこちゃんのいる部屋のカーテンを揺らしているかもしれないし、空のページの海の水が蒸発して、山を越えて、わたしが読んでいる部屋の窓辺に積もる雪になっているかもしれない。そんなふうに、場所や時間、生きている時代が違っても、水や風や光、いろんなものがつながっているのかもしれないな、と。初めてこのお話を正勝くんからもらったときに感じたことを思い出して描きました。

ーーー 最後に、読者の方へメッセージをお願いします。

みかを:なんだろうな、難しい質問…。でも、この話を誰が読むんだろうって想像すると、逆に読んでくださった方に聞きたいかも。読んでどう感じたか。

正勝:このお話、長いこと「マル秘」やったからね。ふたりの秘密やったから。

たかぎみかを
絵描き。1981年、大分県生まれ。現在は兵庫県の山裾に在住。自然のもの、土や植物から抽出した色で絵を描いたり、家の近くに生えている植物や動物の毛で筆をつくったりしながら制作している。

高木正勝
音楽家、映像作家。1979年、京都府生まれ。ピアノを用いた音楽、世界を旅して撮影した映像を手がけ、映画音楽やCM音楽、執筆など幅広く活動。最新作は、細田守監督の映画『未来のミライ』の音楽、自然を招き入れたピアノ曲集『マージナリア』、エッセイ集『こといづ』(木楽舎)。

mammoth [マンモス] No.38 BIRD Issue

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