画:安西水丸

狂言の世界は小さな猿からはじまる|川島朋子・国文学者

大学生のときに平安神宮の薪能を見て狂言に惹かれました。それまで、自分と狂言は関係ないものだと思っていたのですが、見ると不思議と内容がわかるんです。以来、足繁く通うようになり、大学で狂言の研究をするようになりました。狂言には『靭うつぼざる猿』や『猿さるむこ聟』など、猿が登場するものがいくつかあります。和泉流には「猿に始まり狐に終わる」という言葉があり、初舞台は3〜4歳で『靭猿』に登場する猿を演じます。通常、狂言は台詞劇で言葉のやりとりでおもしろさを出すのですが、猿が出てくる曲では、台詞よりも身体の動きで見せます。『猿聟』は、猿の聟入り(現在の結婚式に該当する儀式)の話です。台詞は全部「キャーキャー」言うだけなのですが、聟入りは狂言によくある題材なので、なにを言っているかがわかる。猿を使った狂言のパロディのようなものですね。『靭猿』の猿の役は子どもが演じるので、無邪気な猿に見えますが、じつは狂言の動きが学べるようになっているんです。狂言役者は初舞台をほとんど憶えていないというけれど、こうやって型を身につけるのですね。『靭猿』は猿引き(猿まわし)と猿の話。古い芸能の文献を見ていると、猿引きの絵がよく出てきます。日本では昔から猿と人間が一緒に生活していたんだなと思います。
最近は狂言が人気で、野外でおこなう薪能の開催が増えています。薪能でもにぎやかな猿の演目が出ることもあるので、ぜひ親子で見にいってみてはいかがでしょう。
川島朋子 かわしま・ともこ 
岐阜県生まれ。京都女子大学文学部准教授。博士(文学)。専門は中世国文学。特に能の中で演じられる「間狂言」の研究を行っている。大蔵流狂言師・茂山千三郎師に師事し、狂言の稽古を続けている。
mammoth No.26「MONKEY」(2013年3月15日発行)掲載
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