写真:大沼茂一

絵本作家インタビュー:谷川俊太郎さん

詩人・谷川俊太郎さんと、前衛画家・元永定正さんは、50万部を越える大ヒット絵本『もこもこもこ』を初めとして、数々の「赤ちゃんに大ウケ」する絵本を生み出しています。ふたりの絵本がなぜ赤ちゃんに愛されるのか、その秘密を知りたい。そんな気持ちから、お話をうかがいに行きました。

谷川俊太郎さんインタビュー
「ちっちゃいうちに、愛情に包まれた言葉をちゃんと身につけておくと、あとの人生、生き易いんじゃないかな」

── 谷川さんの赤ちゃんのための絵本、『もこもこもこ』なんかは特に、ある意味、奇跡が起きてると思うんですが……。
「そうかもねぇ。それは生まれた背景が大切だと思いますね。1966年に奨学金みたいなものをもらって、ニューヨークに3ヵ月くらいいたんだけど、その時の同じマンションの上下に、元永さん夫妻と我々夫婦が一緒に暮らしてた。いっぺんに仲良くなって、元永さんの作品をいろいろ見せてもらってるうちに、『これに題名つけてぇな』とか言われて、いい加減に題名つけたりなんかしてたんです。そういう下地があったから、二人とも日本に帰ってきて絵本の話が出た時に、なんか自然に出来た。元永さんの絵が、自然に僕の中から言葉を誘発しただけっていう感じ。つまり、何の苦労も気負いも、意図もなくて。僕も元永さんも、幼児性みたいなものを持ってるんだろうね。僕は人間の年齢って、木の年輪みたいなもんだって思う。たとえ70歳くらいのじいさんでも、切ってみると真ん中にちゃんと赤ん坊時代の自分がいる。でもその自分の赤ちゃん部分をいかにして掘り起こすかっていうのは、結構大変な作業なんですね。自分でも抑圧してるわけだから、ちょっとアホみたいになんないと出来ない」

── 『んぐまーま』などの「あかちゃんから絵本」シリーズ(クレヨンハウス)は、どういうふうに出来たんでしょう?
「あれもほとんど絵が先行なんです。それは自分にとっての一種の挑戦で、初めから言葉でやるとどうしても理に落ちる。言葉っていうのは意味を考えちゃうから。だから、言葉にならないような絵をどうやって言葉にするかっていう、悪戦苦闘するのが楽しいみたいなところがあって。知性、理性は全部どけちゃって、自分の意識下に頼るしかないです。それこそ、赤ん坊がむにゃむにゃ言ってるのと同じような状態に自分を追い込むってことかもしれない」

── 考えて考えて作り出されたわけじゃない、「わけのわからないもの」だからこそ、赤ちゃんに通じたのかもしれませんね。
「生きてるっていうことは、一番基本的に、わけのわかんないところから始まって、それを一所懸命、言葉なんか発明して秩序立てて、整理して、自分たちの生きやすいようにしてる。赤ん坊はわけのわかんないところにポンって生まれてきたわけだから、わけのわかんない中にすべてのエネルギーが潜んでるんだと思うんです。成長していく過程でそれが少し薄まっていくってのが、大人になるっていうことなんじゃない? 大人は、子どもが成長するってことは、何かを獲得していく過程としか見ない傾向があるけど、何かを失ってく過程としても見ないと」

── 大人が読んでも楽しい“言葉のリズム”も、大切なポイントですよね。
「うんとちっちゃい子どものための絵本っていうのは、もちろん文字読めないわけだから誰かが声に出して、完全に聴覚を媒介にして入ってくる。聴覚っていうのは、鼓膜に音波が触れるわけだから、すごいスキンシップだと言う人がいるけど、僕もホントにそう思う。だから、声に出して子どもが喜ぶっていうのは、抱っこしてよしよし、っていうのと似てる。ちっちゃいうちは、そういうスキンシップ的な言語がすごい大事だと思うんです。ちっちゃいうちに、愛情に包まれた言葉をちゃんと身につけておくと、あとの人生、生き易いんじゃないかな。言葉には必ず音が隠れてると思うんだけど、音楽って無意味な所が強みでしょ? 言葉は意味があるのが、強みでもあり弱みでもある。無意味なことも、意味あることと同じように大事だって思えると、僕はいいと思う。(哲学者の)鶴見俊輔さんが、nonsenseは世界の肌触りだって言うんです。人間は世界の意味を一所懸命つけようとしてるけど、意味だけでは追求しきれないものが世界であって、それを肌触りって言ってるんだと思うんだけど。それはすごいよく分かりますね。必ずしも意味を追うことが、人間の幸せにつながるとは思えないから。意味を壊して、世界のあり方、肌触りみたいなものを楽しめるといいと思う」

── それは、絵本を読むということにも、子育てにも、同じことが言えるのではないでしょうか。
「昔は、わらべうたの一番もとみたいな“幼児言葉”で、子どもをあやしたり遊んだりしてた。あと、男親って赤ん坊のことをくすぐったり、高い高いしたり、乱暴な場合は投げちゃったり(笑)、結構遊んでますよね。絵本って、そういうものと一体化して考えた方がいいと思う。芸術作品だとか、やんなきゃいけないもんだとか思わないで。絵本はとにかく読む方が、その絵本が好きで、楽しいって思ってないと。『この絵本面白いからちょっと見て見て! ちょっと読むから聞いて聞いて聞いて!』っていうのが基本であるべきじゃない? だから、これを与えれば子どもはこう進歩するだろう、っていう発想で読んだら絶対ダメ。nonsenseを楽しめない人になっちゃったら、絵本は子どもと一緒に読めないと思う。」

 
谷川俊太郎(たにかわ・しゅんたろう)
1931年、東京に生まれる。父は哲学者の谷川徹三。1952年、『二十億光年の孤独』でデビュー。自身は「肩書きがないんですよ」と笑うが、詩や絵本、脚本、マザーグースや漫画『ピーナッツ』等の翻訳、写真、映画、長男・賢作氏のバンド「DiVa」との演奏・詩の朗読など、ジャンルを越えて幅広く活動中。谷川氏の詩と賢作氏の音楽に触発され、山本容子氏が絵を書き下ろしたCD付き詩・画集『あのひとが来て』が、2005年9月末に発売(マガジンハウス)。

※ このインタビューは、『baby mammoth』第2号(2005年)に掲載されたものです。

【関連記事】
» 絵本作家インタビュー:元永定正さん

 
●谷川俊太郎さんの絵本●
ぽぱーぺ ぽぴぱっぷ』(クレヨンハウス)
谷川俊太郎 文、岡崎乾二郎 絵
岡崎乾二郎の鮮やかでハッピーなクレヨン画と、「ぱぴぷぺぽ」で構成されたリズミカルな言葉が、幸せな余韻を残す一冊。読後もついつい、子どもと一緒に「ぽぽぺ?」「ぽぴぱ」などと会話が弾む。(P.50参照)

もこもこもこ』(分研出版)
谷川俊太郎 文、元永定正 絵
「もこもこ」「にょき」「ぽろり」「ぱちん」など、音のような言葉と、元永定正氏による前衛的かつ空想的な鮮やかな絵に、大人も子どもも果てしなく想像が膨らむ。五感を楽しく刺激してくれる一冊。

んぐまーま』(クレヨンハウス)
谷川俊太郎 文、大竹伸郎 絵
子どもが描いたような、大竹伸郎氏による抽象的でダイナミックな絵と、今まで聞いたことのない不思議な言葉。初めは「ん!?」と思うかもしれないが、読めば読むほど、よくわからない楽しさにおそわれる作品。

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