写真:安彦幸枝

根本きこさんインタビュー|ふたりめの誕生で変わった家族の生活

海と山に囲まれた逗子でカフェを営みながら子育ても楽しむライフスタイルが、同世代の女性の支持を集める根本きこさん。昨年女の子を出産、ふたりのお子さんのママになったきこさんに、子育てについて、そして仕事や生活のあれこれについてお話を伺ってみました。

フードコーディネーターとして活躍後、現在ではご主人と一緒に神奈川県逗子市でカフェ兼雑貨屋「coya」を営む根本きこさん(2009年インタビュー当時)。現在でも雑誌やウェブを通じて発信される、アジア料理などのエッセンスを生かした独特のレシピなど料理についてはもちろんのこと、自分らしいおしゃれや好きなものにこだわりをもつライフスタイルが、同世代の女性たちから多くの支持を集めています。

現在(取材当時)3歳の長男、哩来くんに加え、2008年7月に長女の多実ちゃんを出産。ふたりのお子さんのママになられ、働くママとしての生活もいよいよ本格化してきたきこさんに会いにいってきました。からっと晴れた冬の日に訪ねたcoyaは改装のため休業中。2匹の猫ちゃんたちが行き交う静かな店内。哩来くんは保育園へ出かけ、多実ちゃんを寝かしつけてやっとひと息、というきこさんにお話を伺いました。

「(多実ちゃんは)まだ7カ月だから手はかかりますね。起きている間はずっと抱っこで。上の子は、俗にいう“赤ちゃん返り”は全然なくて、最近では妹なんだってだんだん認識してきたみたい。触ったり、抱っこしてみたり、かなりかわいがっています。泣くとかけ寄って、“トン、トン、トン”ってやってみたり」。まだ3歳の哩来くんですが、お仕事と赤ちゃんのお世話で忙しいママの頼もしい味方になってくれているようです。ひとりでも大変な子育て。ふたりとなればさぞや、と思いがちですが、そんなわけで、きこさんの実感はちょっと違うよう。
「哩来ひとりのときは、私と主人のふたりで哩来を守っている、という感じだったんですが、多実が生まれてからは、私と主人と哩来の三人で多実を育てているという感じで、楽になったんです。いまのところは家族全員がバランスよく暮らしているんじゃないかと思います」とのこと。毎日の暮らしのなかで自分となにかとのバランスを調整したり保ったりという作業は、重要で、だからこそ難しいもの。家族との生活の場が仕事場でもあるきこさんにとって、カフェのオーナーとしての仕事と生活のバランス感覚はどうなのでしょう?

「子どもができる前は、すごく仕事をしていたんです。料理の仕事をしながら、coyaも夜だけの営業を始めていたので、店を開ける日は夜の六時に店をオープンさせて12時ごろ閉めて、片づけをして寝る、という感じでした。そんな日が週に3日あって、それ以外は撮影の仕事をしていました。でも子どもができると否が応でもペースダウンせざるを得ないでしょ? それはできないなぁと思っていたんですが、いざペースダウンしてみると、すっかり味をしめちゃって……(笑)。子どもと毎日海に遊びにいったりして、子どもに合わせて行動する時間が増えたら、いままで料理のほうに向いていた私の意識が、一気に子育てのほうに行ってしまって。(仕事観は)180度変わりましたね」。妊娠、出産を経験し、子育て生活が始まった働く女性にとって、そんなバランス感は自分と家族の生活を守るために不可欠なもの。また、仕事と子育てとの両立のためにさまざまなことに折り合いをつけていくなかで、子どもとの暮らしの楽しさ、そしてそんな生活が与えてくれる“甘い蜜”をこっそり楽しんでいるワーキングママも多いはず。きこさんはその楽しみを、じつに率直に語ってくれます。

子どもとの生活をうまく乗り切るためには家族、とくにご主人の協力が必須。そんなところでも、きこさんの家庭では理想的なバランスが保たれているようです。「子育ても率先して協力してくれるし、仕事の面でも手を差し伸べてくれる存在」というご主人との関係、これは多くのママたちにとってうらやましいかぎりかもしれません。

そんな環境のなかでcoyaを切り盛りするきこさん。そのライフスタイルに憧れて集まってくる女性を中心としたお客さんたちのなかにも、年を経るにつれ、ある変化が起きつつあるようです。

「私に子どもができてから、うちのお店に来てくださるお客さまにも子連れの方がすごく増えてきたんです。平日のある時間帯なんて、全員が子連れなんじゃないかっていうくらいのときもあって。そんな、うちのお店にいらっしゃるお母さんたちに出産や子育てについていろいろ聞かれることも多いんです。“どこで子どもを産んだらいいですか?”とか“子どもを産んでも旅行に行けますか?”とか。インターネットなどで情報は氾濫している時代だけれど、核家族化しているし、お互いに顔が見える関係のなかであれこれ聞いたり、話したりできる人があまりいないんだなぁと思うんです」。

子育て、そして子どもにまつわることのあれこれを、誰かに聞いたり、その情報を仲間と分かちあえる場があったら……! そんな子育てママの願望を身近に感じたことをきっかけに、きこさんはいま、ひとつのことを企んでいます。

「私が参考にしている本の先生や先輩ママたちに、子どもの病気のことや出産についての話などをしてもらうワークショップを開こうと思っているんです。楽しそうでしょ(笑)? まわりに“どうなってるの?”って困っているお母さんがいたら、その声に耳を傾けて、一緒に解決策を考えていくようなことができたら、って思って。子どもっていちばん大事なもの。だから、いろんなことが気になるじゃないですか?」子どもという共通項、そしてcoyaを通じて広がったネットワークが、きこさん自身の活動の幅も広げつつあるようです。

そんな、公私ともに充実した生活を送るきこさんですが、子育てについて悩んだり、考えたりすることはもちろんあるはず。なかでも、子どもの叱りかたについては、自分自身が現場で感じる気持ちと、自らが育児書で調べたことを比べながら深く考え、対処しているとのこと。

「子どもが悪いことをしたときに、手を上げるか上げないかって悩むところですよね? 痛みをもってわからせるということについて、どうなのかな? と思っていたときに、(小児科医の)毛利子来先生の本を読んだら、“絶対にダメだ”とおっしゃっているんです。“そんなことをしなくてもわかるようになるし、痛みをもって覚えると、のちのち陰でこそこそ悪いことをするような姑息な精神が宿る”とか、“言葉がわからないうちは、怒っているということを目で訴えなさい”と書かれているのを読んで、腑におちたんです。それでも忙しいときやイライラしたときは“コラー!”ってやってしまいそうになるんですけれど、そのたびに毛利先生の言葉を思いだしながら助けられつつ、やっています」。小さいけれどいっぱしの感情をもち、こちらの予想を覆すような行動をくり広げるひとりの人間とじっくりと向きあうという、おそらくそれまでの人生のなかでもいちばんディープな人間関係を結ぶ母と子。その毎日の体験のなかで、自分がとるべき行動を、客観的な視点も交え、真剣に考えて探りだそうとしているきこさん。そんなきこさんの姿勢に、ピンと背筋が伸びた清々しいものを感じました。

「子どものころは、自分の母親や友だちのお母さんという人たちを、みんな一緒くたに“おかあさん”というカテゴリーのなかに閉じこめて、その人の本質を全然見ていなかったと思うんです。だけど、あたりまえのことですけど、お母さんだってひとりの人間なんだな、って(笑)。ひとりひとり違うし、それぞれに好きなものがある」。ママになったからこそ身にしみてわかるけれど、世間一般ではあまり語られることのない、こんなこと。でもあえてそれを口に出すことの重要性に気づき、さらりと語ってくれるきこさん。その言葉は、同じ世代のママたちはもちろん、彼女の一端に触れたことのある多くの女性たちにとっても、親しさだけでなく、頼もしさをも感じさせてくれるのでしょう。

 
根本きこ
ねもときこ フードコーディネーター。カフェ兼雑貨屋「coya」の主人。さまざまな国の料理のエッセンスを独自にアレンジした料理のスタイルのみならず、雑貨のセレクトやナチュラルな着こなしにみられる飾らないライフスタイルが多くの女性の支持を集めている。『いそげ、早く、私はペコペコ!』、『子どもとハワイ 〜Kauai〜 Going to Hawaii with My Son』など著書多数。

 
このインタビューは、『mammoth』no.18(2009年3月発行)に掲載されています。
現在、根本きこさんは沖縄に移住され、coyaは2010年4月に閉店しています。

取材・文:編集部 写真:安彦幸枝

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