花は自然の一部で身近なもの もっと自由に楽しもう|フラワーアーティスト ニコライ・バーグマンさん インタビュー

花ともっと仲よくなるにはどうしたらいいのでしょう。フラワーアーティストのニコライ・バーグマンさんにそのヒントを聞きました。幼少時代の話、母国デンマークの人たちの花との接しかた、フラワーデザインのテーマなどなど。もっと自由に、もっと楽しく、花との暮らしかたを考えてみましょう。

– 僕がいまのように花の仕事をするようになった原点には、生まれてきてからずっと、自然や植物がすごく身近にある環境で育ってきたことがありますね。父は鉢物の卸売り、祖父はりんご園を営んでいました。僕が住んでいたアマー島は、コペンハーゲンの中心地から車で20分くらいのところにあるのですが、うちが海側だったこともあって、海も森もすぐ目の前で自然がとても豊か。それと、うちから車で10分くらい行ったところに、祖父が経営するとても広いりんご園があって、小さなころはよくそこに遊びにいっていました。60〜70年代のデンマークは働き手が足りなかったので、スペインやポルトガル、トルコから仕事を求めて移住する人が多く、祖父の農場でもいろいろな国の人が働いていて、すごく仲よくなった。いまでもつきあいが続いているんですよ。

10歳くらいになると、祖父のりんご園の一角に自分専用の畑をもらって、そこでヒマワリやカボチャを育てては、父と一緒に市場に卸していました。そのような環境で育ったので、植物のここに魅力を感じたからといったなにか明確な理由を抱くまでもなく、ごく当たり前のことのように農園の仕事には興味をもっていました。でも、その一方で、父の弟も農業を営んでいたので、仕事の大変さもよく知っていましたから、別の仕事を探したい気持ちもありましたね。デンマークは15もしくは16歳で義務教育を終え、そこから1カ所につき1週間ずつ、少なくとも3カ所で職業体験をして、その後の進路の準備をするというシステムになっているんです。僕はコンピュータ関連の企業と馬蹄師の仕事、それと花屋の職業体験を選択。そのときの花屋での職業体験がすごくおもしろかったので、そのまま働くことにしました。 

働きながら仕事に必要な勉強ができるシステムがデンマークにはあります。国が会社をサポートするんです。僕も花屋で働きながら、国立ビジネスカレッジに通い花の勉強をして、3年半ほどでフローリストの資格を取りました。無事に資格を取れた卒業旅行として、父のツテを頼って3カ月ほど日本に滞在しました。その後、いったんデンマークに帰国し、再び来日。まずは日本の花屋さんで経験を積み、ニコライ バーグマン フラワーズ& デザインを立ち上げたのが2001年。それからはずっとチャレンジの連続、僕にとって日本はつねに新しいチャンスが得られる場所のようです。 

日本に来たばかりのころは、日本文化についてなんでも興味があって、いろいろと勉強をしました。生け花を体験したこともあるんですよ。「花が好き」という点は、北欧の人も日本の人も同じです。日本の生け花は、ルールや意味合いも大切にしながらお花を飾りますよね。その伝統があるためでしょうか、日本ではたくさんの花を飾ることよりも、数輪の花を小さな花器にいけたようなシンプルなものが好まれるんだなと感じました。デンマークの人はもっとなにげなく花を生活に取り入れています。自然に咲いていた花を摘んできて、大きな花瓶にバサッと入れてダイニングテーブルに置くとか。お花はどこにでも売っていて、ガソリンスタンドでもスーパーでも買えるんですよ。日本では友人を自宅に招いたり、逆に遊びにいったりする習慣があまりないようですが、デンマークでは週末になると友人と自宅で一緒に楽しく過ごします。そのときの定番の手みやげがお花なんです。ゴージャスな感じを出したいときにはたくさんの切り花を、さりげなく渡したいときにはちょっとした鉢物を贈ります。日本は事務所やお店のオープンやセレモニーなど、オフィシャルな場面ではお花を贈りますが、個人で贈ったり、贈られたりする習慣は少ないですよね。もっと花を気軽に楽しんでくれたらいいのにな、と思います。でも、10年くらいのサイクルで新しい習慣が生まれたり、古い習慣が復活したりしますから、日本でも個人でお花を贈るブームがくるかもしれませんね。デンマークでも15年くらい前まではバレンタインデーの風習なんてなかったのに、最近はすごく盛り上がっていますから。

僕のフラワーデザインには、大きくふたつのテーマがあって、ひとつが和と北欧のセンスの組み合わせです。それはなにもヨーロッパと日本の花を合わせるといった具体的なことではなくて、雰囲気です。パッと見たときに色や形などの組み合わせから、どことなく和と北欧のコンビネーションを感じてもらえたらいいなと思っています。もうひとつがサプライズの要素。なぜだか悪いことはよく憶えているものです。でも、逆にいいことや心地よかったことは案外スーッと記憶から消えてしまいますから、悪いこと以上に盛り上がっちゃうくらいのインパクトが必要。フラワーアレンジメントも「ああ、きれいだな」だけでは人の印象には残らないし、感動を与えられるものにはならない。だから、壁面にコケを敷きつめてみたり、珍しい花材を使ってみたり、見た人が「これはなんだろう」と驚いてくれるようなものを考えつづけていきたいと思っています。

自分にとって欠かせない花材は、枝ものや実ものです。日本は、マツやウメ、サクラといった枝ものや実ものの花材が充実しているのが特徴で、ヨーロッパでは手に入らないようないい状態のものも多くてすごく魅力的。実ものはウェディングブーケでもよく使いますね。花だけではなく、枝ものや実ものも組み合わせることで、いつまで眺めていても新しい発見や楽しみがあるようにデザインしています。日本では花を栽培する小さな生産者がとてもがんばっていて、花の種類や色合いがとても豊富です。デンマークも昔は小さなつくり手の人がたくさんいましたが、すっかり淘汰されてしまっていまでは大規模な農園しか生き残っていません。日本もいつそうなるかわからないですから、小さなつくり手の人たちと大切におつきあいしていきたいです。

そのためにも、たくさんの人に花をもっと身近に感じてもらいたい。それはなにもフラワーショップに花を買いにいくということだけではなくて、花は自然の一部で、暮らしのなかに取り入れるととても楽しいし、幸せな気持ちになることをまずは知ってもらいたいですね。僕には5歳の息子がいて、彼も花がすごく好き。たくさんの花の名前を覚えているし、水にさすときは茎を斜めに切ってあげることも知っています。もちろん彼の興味を引くために、フラワーショップに一緒に行って花を選んだり、一緒にいけたりしてきました。僕の代表作であるフラワーボックスづくりをやらせてみたことも。最初は変な色の組み合わせをしたり、箱の外に花を置いてしまったり。僕もついつい「その花が使いたいなら、こっちの色の花と組み合わせたほうがいいよ」なんて口を出してしまったのですが、いまは変な色の組み合わせをしているなと思っても自由にさせておきます。最初のうちは自由に楽しく、花と遊んでみることが大切。息子の場合は、花を選ぶことがとても好きなようで、「これはお母さん用」「これはテーブルに飾る用」といってあげる人や飾る場所を思い浮かべながら上機嫌で選んでいます。選ぶのが好きか、いけるのが好きか、飾るのが得意なのか、子どもの興味に合わせてたくさん機会をつくってあげるといいと思いますよ。

子どものいいところは、悩まないところ。この花が好きと思ったら、「こっちのほうがいいよ」と僕がすすめても、「ううん、こっち」とキッパリ。大人はいろいろと考えすぎてしまうものですが、このくらい単純に好きな花を選んでいけてみるのがいちばんです。花は枯れてしまうからもったいない、花器がないからいけられない、などと悩まずに、道端に咲いていた花を1輪、コーヒーカップやワイングラスに入れて飾ってみるだけでいいんです。花を飾るということは、自然の一部を住まいに取り入れるということ。自然には人をリラックスさせてくれるすごい影響力があって、もちろん花も同じ。だから、特別なときだけではなく、日常的に花を楽しんでください。心がほっとリラックスしますから。
 

ニコライ・バーグマン 1976年、デンマーク・コペンハーゲン生まれ。2001年に「ニコライ バーグマン フラワーズ & デザイン」を立ち上げ、現在、東京南青山、六本木ヒルズなど国内外に9拠点を設け、活躍。また、自身にインスピレーションを与えてくれる花材・素材の美しさ、そこから作品にいたるまでを自由に表現したマガジン『FUTURE BLOOM』を発行。2014年3月にISSUE 2を刊行した。 www.nicolaibergmann.com

※ このインタビューは、mammoth no.28 FLOWER号に掲載されています。 Text: Aya Kaiden Photography: Machiko Fukuda

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