生きものや物の中間にある、言葉を知る前の感覚を探る|山村浩二|アニメーション作家

人間がもっている視覚や聴覚には限界がありますが、それを超えた世界がどこかにあるに違いない、ということは薄々みなさんも感じていると思います。僕は残念ながら、そういう世界が見られるわけではありません。でも、確実にあると信じています。
アニメーションは「夢を可視化できる装置」。夢のなかで起きるような荒唐無稽な出来事や、言葉にならない感情、心象世界を表すのに、アニメーションは適しています。日常のなかでは目に見えないもの、感じているけれども確定していないものに形を与えて、それを映像のなかで自由に動かす。僕がつくっているアニメーションは、一般的なアニメーション作品とは少し違い、ストーリーや意味を伴わないことがある。でも、言葉がわからない人や小さな子が見ても“何か”を感じる。物語や言葉以前の感覚を伝える、そんなアニメーションの可能性を探っています。
生物学者のユクスキュルは環世界という言葉で、すべての動物がもつ知覚世界が違うことを示しています。たとえば、コウモリは超音波で周囲の環境を認識しているし、ミツバチにとっての花の見えかたは私たち人間とは確実に違う。人間同士だって、必ずしも同じ世界を見ているとは限りません。
創作の過程でおもしろいのはメタモルフォーゼ。人や物の形が変型する過程を絵に描き表すとき、人間でも動物でもない、この世のものでもない中間的なものに遭遇する。そのとき、言葉以前の感性が刺激されて、どこかにあるはずの世界にふれられるのです。
山村浩二
1964年生まれ。東京藝術大学教授。アニメーション作品に『頭山』(02)『カフカ 田舎医者』(07)『マイブリッジの糸』(11)など、最新作に『サティの「パラード」』(16)。『ぱれーど』(講談社)など絵本作家としても活躍。
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