“知恵”を育む海あそび|海野義明(NPOオーシャンファミリー代表)

数十年前まではここ葉山の海の周辺にも大家族が多く住んでいて、子どもたちは、親だけでなく近所の大人たちと普通に接し、いろいろなことを学びとっていました。学校が終われば当たり前のように海に出かけ、遊ぶなかで自然の美しさや怖さを知っていったんです。
僕自身、海で暮らすための知恵を漁師から教わるたび、彼らの鋭敏な感覚、自然の雄大さに感動を覚えたものです。天気の変化を読みとり、海が荒れるのを予測する知恵。人間は長い時間をかけて海から多くのものを教わり、それを生活に活かしてきたのだと。
いまの世の中は、ネットからどんな知識だって取りだせるし、携帯からだって瞬時に情報を交換できる。だから子どもたちは家のなかでコンピュータ ーをいじりながらたくさんの知識を得ることだってできてしまう。でもそうして得た知識は、なかなか実際の生活には役立たない。知識と実体験があって初めて「知恵」のレベルに達する。僕はそう考えて、海で遊ぶことの楽しさ、自然のなかで過ごす充実感を、より多くの子どもたちに伝えようと活動を続けています。
子どもたちは海というフィールドで、自然の豊かさを実感するだけではありません。海という環境を間近に見て触れることで、さまざまなことに驚き、意外な発見をすれば、そこで受けた感情を周囲の人々と共有しようとするのです。外で遊ぶ機会が少なくなり、知らない人との接しかたもわからない子どもたち。彼らは海で、人と共感する喜びさえ、学んでいくのです。
 
海野義明 うんの・よしあき
オーシャンファミリー海洋自然体験センター主宰。葉山にベースを置きながら、沖縄、佐渡島、三宅島、串本などあらゆるフィールドで、海の魅力を子どもたちに伝える活動を続けている。
このインタビューは、『mammoth』24号「Our Ocean 命をつなぐ ひとつの海」に掲載されています。text: Hiroshi Utsunomiya artwork: Nobuko Yuki