海の危険を 身体で感じて|八幡暁(シーカヤッカー)

僕のおこなっているグレートシーマンプロジェクトは、オーストラリアから日本に広がる広大な海域を、シーカヤックといういわば「人力」だけで航行しようというもの。この計画を知ると人は僕のことを「勇気ある冒険者」のように言ってくれますが、自分ではまったくそう思ってはいないんです。
エンジンを持たないカヤックで長距離を移動するには、気象のこと、海流のこと、星によって位置を知るスターナビゲーションのことなど、さまざまな知識や技術を身につけていなくてはならない。でも、大昔から海の民はこうしたことを自然に身につけ、豊かな海で暮らしてきた。僕は、かつて人間が当たり前のようにもっていた能力を確認し、取り戻そうとしているだけ。極地へ到達したいとか、大冒険に興味があるということではありません。
学生のころ、ある漁師に出会い、人が海で生きるというのはどういうことかを考えはじめました。「魚を獲る ためにはどうすればよいか」「あの海の先にはなにがあるのか」「向こうの島にも渡ってみたい」。いろいろなことを試してみたくなり、実践していくうちに、自然をもっと理解したいと思うようにもなっていきました。そのなかで、なにが可能で、なにが危険かわかったこともたくさんあります。
海はたしかに危険な一面をもっています。でも子どものうちに危険から遠ざかってばかりいては、本当の意味での生きる知恵や感覚を失ってしまう。 管理や制限だけでは、強い人間は育たないのです。
 
八幡暁 やはた・さとる
シーカヤックによる人力のみの航行にこだわり、台湾〜与那国島間の黒潮横断や、フィリピン〜台湾への単独無伴走など、数々の記録を樹立。人と海の営みをとおして「豊かさ」を探求しつづけている。
このインタビューは、『mammoth』24号「Our Ocean 命をつなぐ ひとつの海」に掲載されています。text: Hiroshi Utsunomiya artwork: Nobuko Yuki