ART WORK: MEJUNJE

多様な価値観の成熟した未来|いとうせいこう(文筆家・ラッパー)

人類は20世紀に急激に年をとった。わずか数十年で思春期から青年期を駆け抜け、いまはどうやって熟年期を迎えるかを探っている時代。老いを悲劇と見れば暗い気分になるけど、むしろ分別のある暮らしをする「成熟したカッコいい大人」になるのが、人類の未来なんだと僕は考えたい。
例えば、ラップは若い人たちのものと思いがちだけど、それは一時期のアメリカの価値観。日本やヨーロッパの国々では、歳をとると芸がよくなることをみんな知っている。僕は70~80歳の人がラップをやった方が、20代のラッパーよりもはるかに説得力があると思う。何故なら20代の彼らよりたくさんの経験をしているから。僕はまったく負ける気がしないし、そう見られる表現を学んでいきたい。また、大人は若い人たちから新しい価値観を学ぶ。お互いに憧れ合う関係が構築されるような社会になるといいよね。
去年ツイッターに出会って本当によかったと思ってる。これまで1対多だった情報が多対多に変わり、ひとりの発言が社会を変え得る、目の覚めるメディア革命が起きたんだから。毎日浮かぶ発想をツイートし、有名無名に拠らず新しい価値観に刺激を受ける。真のエディターシップが問われるし、世の中をおもしろくする原動力にもなる。
未来なんて何が起こるかわからないし、完璧な未来なんてない。そんななか、柔らかく変化に対応できる成熟した社会をつくり、世界をおもしろく生きるヒントをどれだけ提示できるかが、いまの大人ができることなんだと思う。
いとうせいこう 
1961年、東京生まれ。88年に小説『ノーライフ・キング』でデビュー。99年『ボタニカル・ライフ』で第15回講談社エッセイ賞受賞。執筆活動の一方で舞台やライブをこなし、口ロロではラッパーとしても活躍。
マンモス 21号 「IMAGINE THE FUTURE どんな未来を想像する?」(2011年9月発行) インタビューより
Text: Keiko Kamijo