『きょうというひ』 作:荒井良二 BL出版

ピースについて考える本

マンモス19号「平和をつくろう!」では、Think the Earthプロジェクト上田壮一さんが選ぶ「ピースについて考える本」を紹介しています。
— 10年前、ある番組の取材で停戦直後のコソボを訪れた。破壊し尽くされた街、息子を失って悲しみに暮れる老女、憎しみを露わにする子どもたち……。停戦したとはいえ、ピースにはほど遠い世界。同じ取材で病院の新生児室を訪れた。オギャー、オギャーと泣く赤ん坊たちを見てハッと気づくことがあった。この子たちは、まだ悲しみも憎しみも、何も知らないのだと。これから何を見、何を聞き、何を学んでいくか、それがこの子たちの未来を決め、世界の未来を左右する。憎しみより赦しを、悲しみより愛を知って欲しいと強く願った。
生まれた子どもが何を見て、何を感じて生きるかは、どこの国であっても大切なことだ。では、ぼくたちの日常はどうか。紛争や貧困に苦しむ人たちに比べれば、ピースに溢れている。でも、そのことをちゃんと感じているだろうか。平和な国に生きていることで、ぼくたちはピースに気づく力が鈍っているのかもしれない。大切にしたいピースが増えれば増えるほど、それを壊されたくないと思うはず。親子で壊されたくないものを話し合ってみよう。そうやって戦争や暴力をなくしていこう。もっとピースに気づく力を鍛えなくちゃ。–(選・文:上田壮一)

100 SUNS』 著:Michael Light KNOPF
アメリカが1945年から1962年までに行った核実験の写真。「百の太陽」の禍々しい美しさは、この兵器を作り出してしまった人類の狂気そのもの。いったい、どこへ行こうとしているのか。

幸福写真』 著:荒木経惟 ポプラ社
アラーキー初の幸福写真集。ピースはさりげない日常の中にある。写真家は、そのささやかな幸せの瞬間を切り取る。「永遠になれ、そう思ってシャッターを切っているんだ」。

じいちゃんさま』 著:梅佳代 リトル・モア
なんでしょうね、この幸福な感じは。じいちゃんとか、ばあちゃんとか、家族がいてくれて、特別なことがなくても、平穏な日々が、つつがなく続いていくことの愛おしさ。

Merry in KOBE』 著:水谷孝次 神戸新聞総合出版センター
水谷さんは世界中の子どもの笑顔を撮り続けている。これはその「神戸篇」。無理にでも笑顔を作ると、前向きな気分になれる機能が人には備わっているというけれど、この写真集にもそんな効能がある。

STILL CRAZY』 著:広川泰士 光琳社
40近い日本の原子力発電所の写真。海岸沿いに立つ原発のたたずまいは、静かだけど、どこか不気味。言葉はほとんどない写真集だが、タイトルが強いメッセージを放っている。

せんねんまんねん』 作:まど・みちお 絵:柚木沙耶郎 理論社
40億年前に生命が誕生して以来、いのちは延々と巡り続けている。その壮大な営みも、まど・みちおさんの魔法にかかれば、こんな詩に。絵本として読めるのも2倍の幸せ。

動物会議』 著:エーリヒ・ケストナー 絵:ヴァルター・トリアー 訳:池田香代子 岩波書店
動物たちが人間の所業にあきれ、「子どもたちの未来のために」会議を開き、世界に平和をもたらす痛快な物語。出版から60年が経つのに、人間は何も変わっていない。嗚呼。

きょうというひ』 作:荒井良二 BL出版
ページをめくると、心の奥に静かに何かがこみ上げてくる不思議な作品。かけがえのない一日、一瞬。「きょうというひの ちいさな いのりが きえないように きえないように…」。

虹の星』 著:高砂淳二 小学館
世界各地の虹が収められた写真集。虹がかかると、仕事の手を休めても見てしまう。隣にいる人と、気持ちのいい連帯感が生まれたりする。水と光が生み出す奇跡には、人をピースにする力がある。

はしるチンチン』 作・絵:しりあがり寿 岩崎書店
マンガ家しりあがり寿さんの初めての絵本。どこまでも、ひたすら走り続けるフルチンのコウキくん。世界からほとばしるエネルギー。生命力の爆発。走り抜けた先には……。

あなたが うまれた ひ』 作・絵:デブラ・フレイジャー 訳:井上荒野 福音館書店
あなたの誕生を、動物たちも、森の木も、太陽も地球も月も祝福する。生まれてきたいのちは、万物が受け入れる。否定はどこにもない。いのちがあるって、そういうこと。

戦争で死んだ兵士のこと』 作:小泉吉宏 メディアファクトリー
この本のアイディアはホントにすごい。戦争は、あっというまに日常を奪い、生命を奪い、息子や恋人を奪う。なにげない毎日の大切さ。失う前にちゃんと気づいておきたい。

地球巡礼』 著:野町和嘉 新潮社
サハラ砂漠、チベット、メッカなど神に祈る人々の姿を追った写真集。人はなぜ祈るのだろう。過酷な自然や争いの日常の中では、神への祈りは、力なき人々に最後に残された希望だったのかもしれない。

ドロップ』 作・絵:シルヴィア・フォン・オメン 訳:よこやまかずこ 竹書房
うさぎのヨリスとねこのオスカー。仲良しの二匹のピースなやりとり。友達や恋人や夫婦で、二人で読んでほしい。仲良しの二人だったら、この絵本が愛おしい存在になるはず。

はるなつあきふゆ』  作・絵:飯野和好 福音館書店
この絵本の圧巻は、4倍サイズの折り込み。四季の美しさと、その中で暮らす人間や動物がのびのびと描かれている。自然の中で生きている実感が失われると、ピースも減っていくと思う。
 
上田壮一 うえだ そういち
1965年生まれ。2001年、クリエイティブを入り口に社会・環境問題への関心喚起を行なうNPO、Think the Earthプロジェクトを設立。プロデューサー/ディレクターとして、地球時計wn-1、携帯アプリlive earth、写真集『百年の愚行』、書籍『1秒の世界』『世界を変えるお金の使い方』など多数の作品を手がけている。
www.ThinktheEarth.net/jp
※このインタビューは、マンモス19号「平和をつくろう!」(2009年9月発行)に掲載されています。選・文:上田壮一 撮影:福田真知子