Hokkaido Museum of Northern Peoples

壁かけにこめられた、イヌイットの物語

あざらしやカリブーなど北極圏で暮らす動物や渡り鳥、氷上で遊ぶ子どもたちや犬ぞりに乗った男性、イグルー(雪の家)で生活する人々…。これらの絵は、カナダやアラスカなどの極北地方に暮らす先住民族、イヌイットの女性たちによってつくられた壁かけです。冬のあいだは、ほとんど太陽がのぼらない氷の大地で暮らすイヌイットにとって、厳しい寒さから家族を守るための衣服をつくることは、大事な仕事のひとつでした。もともと動物の毛皮でつくられていたパーカ(防寒着)が、近年になってダッフル地や防水のキャンバス地でつくられるようになったことから、縫製の際に余ったはぎれを集めて、壁かけがつくられるようになったといわれています。
現在のイヌイットは、イグルーではなくセントラルヒーティングのある住宅に暮らし、犬ぞりではなくスノーモービルを交通手段とした生活をしています。いまとなっては、イヌイットの壁かけは、先住民族としての歴史や、厳しい大自然のなかでの暮らしを伝える貴重な資料のひとつです。そこにはイヌイットの豊かな文化や精神世界、そして数々の物語が美しく紡ぎだされているのです。
写真提供:北方民族博物館